2014年

1月

09日

80)摩訶大将棋の駒の出現回数:源平盛衰記

摩訶大将棋の復刻は、今のところ、象棊纂圖部類抄だけに頼っているという状況です。一方で、古典将棋の古文書が見つかることを気長に待っています。京都か鎌倉のどこかのお寺で、まだ見ぬ将棋の図面、眠っていないでしょうか。


本稿では、摩訶大将棋に、別の方向から入っていこうと思います。源平盛衰記の手がかりを紹介します。源平盛衰記は鎌倉時代の軍記物語です。成立時期ですが、1247年から1249年の間だろうという説明が、以下の論文にあります。
http://homepage2.nifty.com/bunkyoken/71kumagai/kumagaiDtextZ10_3906.html


摩訶大将棋の駒の名前を源平盛衰記の原文から抜き出し、出現回数をカウントしてみました。以下、その結果です。


金剛力士:4、提婆:15、無明:2、鳳凰:8、麒麟:2、王子:82、歩兵:4、
獅子狛犬:1、夜叉:15、羅刹:5、酔象:1、竜馬:1、竜王:36


なお、狼、虎、熊、牛といった動物系の単語は多数出現しますが、悪狼、盲虎、盲熊、猛牛という単語では登場しません。また、車という単語も非常に多数出現しますが、飛車、香車等はもちろん見当たりません。将という単語も、大将、中将等がありますので、非常に多いわけですが、玉将、金将といった単語はありません。駒とは関係なしですが、摩訶という単語も5回出現します。

 

この結果を多いとみるかどうかですが、ともかくも、摩訶大将棋の駒は、認知された単語ではあるわけです。そして、以下、原文から一番重要なところを。


敵も御方も軍の事をば閣て、此馬をこそ誉たりけれ。獅子奮迅の振舞、竜馬酔象の有様、穆王八匹の天馬の駒、角やとぞ見えける。


「獅子奮迅の振舞、竜馬酔象の有様」、という短文の中に駒の名前が4つも出てきます。竜馬酔象の有様、という表現は、将棋の比喩ではないのでしょうか。馬や駒という単語もあります(馬は、こま、でもあります)。この箇所を読みますと、大大将棋の駒の単語もカウントしなくてはいけないと思いますが(奮迅が大大将棋の駒です)、この件はまた後日にでも。

 

獅子奮迅の振舞、竜馬酔象の有様、この文章から察するに、13世紀の中頃には、すでに、獅子も竜馬も酔象も盤上に現れていたような気がします。さらに極論するなら、上に羅列した仏教関連の駒々も現れていたかも知れません。まさに摩訶大将棋が出現していたわけです。投稿77、投稿79と、最近続けて摩訶大将棋の先行仮説を投稿しているのですが、個々の小さな状況証拠を合わせて検討していただけたらと思います。


それと、この件との関連で重要なことは、源平盛衰記が、普通唱導集よりも50年も早いということです。普通唱導集には、いくつかの大将棋関連の駒が登場しますが、強力な駒が登場しないために、多少とも初期の古典将棋として想定される傾向にあります。たぶん、この点は、注意が必要でしょう。


平家物語に対しても、本稿と同様の抽出をしてみたいと思っています。平家物語を使えば、時代をさらに20年以上遡ることができますので、後鳥羽上皇、土御門天皇も視野に入ってきます。後鳥羽上皇が、水無瀬離宮で指した将棋はどんな将棋だったでしょう。土御門天皇はあの奔獏の駒を使っていたのかどうか。

 

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コメント: 4
  • #1

    mizo (金曜日, 10 1月 2014 09:08)

    多角的な視野、感心いたしました。
    私は、龍馬・龍王は中将棋創案にさいして創られたと考えていますが、この言葉がどうして選ばれたかが分かりませんでした。普通唱導集大将棋にあった飛龍を、動きのわかりやすい鳳凰の駒に変更し、使わなくなった「龍」という文字が良い字なので再使用されたと、漠然と考えていました。
    そもそもは「二中歴大将棋」の飛龍・猛虎ですが、同じく良い文字である「虎」がその後あまり使われていないのが不審でした。
    この差は、「竜王」36という良く使用される文字と、「虎」というあまり使用されない文字の違いだったのですね。

  • #2

    T_T (金曜日, 10 1月 2014 23:16)

    コメントありがとうございます!

    源平盛衰記には、虎の字は49件ありますので、使われていないというわけではないです。ちなみに、狼:82、熊:100以上、象:24、牛:69です。龍の字は12件、龍王は1件です。飛竜だと、1件だけあります。

  • #3

    mizo (土曜日, 11 1月 2014 08:17)

    調査してくださって感謝の言葉もありません。
    誤解していました。「中将棋」「大将棋」の駒では、「桂馬」「白駒」は別格として、「悪狼」「嗔猪」「奔猪」「猛牛」「飛牛」「飛鹿」という日本で確認できる動物名の頻度が高いようですね。「飛鷲」「角鷹」「鯨鯢」といった鳥・海獣も実物を確認できたと思います。「猛虎」「盲虎」「猛豹」「酔象」「獅子(lion)」は実在はするが、日本では確認できないと思われる物です。「飛龍」「龍王」「龍馬」「猫又」「麒麟」「鳳凰」は空想の産物です。「熊」「犬」の駒の出現が遅れたのは謎です。「狐」「狸」も遅れます。

  • #4

    長さん (水曜日, 15 1月 2014 14:58)

    すでに出土もされているわけですが。鎌倉時代にも、「酔象」という駒は
    確かに有った感じですね。酔象有り、平安大将棋(亜種)というのが、
    かなり知られていたのかもと思いました。
    「軍馬」の話なのに、象が作者に連想されるわけですから。
    前後の文脈をネットで調べて、それ以上の推論は、ややぼんやりとした
    感じかと思いましたが。