2015年

6月

27日

159)知られざる大型将棋:その存在の可能性と鳥獣戯画

本稿、すべて空想です。とは言え、多少の根拠はありますし、本ブログの一連のシナリオにも沿っています。仮説と言った方がいいのかも知れませんが、まあ、いちおう、空想ということで書きます。まず、延年大将棋(=泰将棋)の初期配置(図1)をご覧下さい。


                 図1.延年大将棋(=泰将棋)の初期配置.
                 図1.延年大将棋(=泰将棋)の初期配置.

 

マス目の色の分類は、次のとおりです。

1)クリーム色:摩訶大将棋にある駒

2)水色   :大大将棋にだけある駒

3)赤色・朱色:延年大将棋にだけある駒

4)赤色   :中将棋の成り駒として存在する駒


上記3)の分類が分かりにくいかも知れません。ここでは、表の駒だけを対象にしており、成り駒のことは考えていません。それは、前稿157)でも書いたとおり、成り駒は、すでに存在する表の駒に由来するという考え方によります。仮説です。ここまでのシナリオは、以前の投稿77)や投稿79)にも類似した内容を書きましたが、その後、鳥獣戯画と将棋との関連を考え始めてから、多少考えが発展しています。ですので、本稿は以前の投稿内容とは一部異なります。なお、太子の駒だけが未分類です。不明点が残っています。なぜ太子だけが、成り駒からの借用だったのかという点です。あるいは、太子も表の駒だったのかも知れませんが、現状、この点については、何も書けません。


さて、上記3)の延年大将棋だけにある駒ですが、以前は、これらの駒は、延年大将棋を作る際に、新しく考案されたものと考えていました。今は、そうではないという考えに傾いています。延年大将棋は指すための将棋ではなく、歌を吟じながら、1年の日数(=354日)分の駒を、ひとつひとつ並べることで、延年(=長寿)を祈願した、あるいはお祝いした、そういう将棋だったわけです。駒を新しく作るということはなかったのではないでしょうか。むしろ、当時何種類か存在した大型将棋から、駒を寄せ集めて354枚を揃えたと考える方が自然です。


とすれば、図1の赤色・朱色の駒は、摩訶大将棋でも大大将棋でもない、別の大型将棋ーまだ知られていない将棋Xーにあった駒だということです。それが、飛鷲、角鷹、飛牛、白駒、鯨鯢、金鹿、銀兎、猛鷲、孔雀、羊兵、兵士、横龍、朱雀、玄武の14駒です。あるいは、太子も、将棋Xには、表の駒として入っていたのかも知れません。


延年大将棋は、354枚の初期配置をきちんと並べることに意味を持つ将棋です。そこに並ぶ駒は、当然ですが、すべてが表の駒であるべきで、成り駒が含まれていてはおかしいのです。ですので、延年大将棋の飛鷲や角鷹が、中将棋の成り駒としての飛鷲や角鷹から取られたという考えはむずかしいでしょう。このようなシナリオで考えますと、中将棋の成立は、延年大将棋の成立よりも遅かったと結論できますが、これは、文献に残された中将棋の史実から見ても、妥当だと思われます。


ともあれ、飛鷲も角鷹も、表の駒であるべきです。たとえば、延年大将棋の駒として使うのなら、摩訶大将棋の仙鶴や法性の駒はぴったりの駒だと思いますが、初期配置に成り駒が並ぶのはあり得ません。淮鶏や無明が同時に並んでいるからです。このように考えたとき、延年大将棋に、酔象と太子があるのはなぜでしょう。ひとつの推理としては、延年大将棋の成立当時、酔象の成り駒は王子だった、と考えることです。この場合、延年大将棋は、大将棋よりも早くに成立していたということになります。


さて、ようやく、鳥獣戯画のことに入れそうです。乙巻の絵は、将棋の駒を表わしているのかも知れない、そのようなことを、投稿145)に書きました。本稿、その続きとなります。乙巻の絵は、たとえば、次のように将棋の駒と対応します。鳥獣戯画乙巻成立時の12世紀中ごろに、将棋Xがあったことを想定しています。もちろん、その将棋Xには、飛鷲や角鷹が表の駒として含まれています。乙巻には、15種類の動物が登場します。それぞれ、駒の一例を示します。


1)龍馬、2)猛牛、3)角鷹、4)悪狼、5)淮鶏、

6)飛鷲、7)狛犬、8)麒麟、9)猛豹、10)羊兵、

11)盲虎、12)師子、13)龍王、14)酔象、15)奔獏


飛鷲、角鷹を使う将棋が、延年大将棋よりも早い時代にあったという直接的な文献や出土は、もちろん、存在しません。しかし、間接的には、本稿で書きましたとおり、あり得るシナリオではないかと考えます。金鹿や銀兎といった駒も将棋Xの駒の候補となるわけですが、鹿や兎は、鳥獣戯画甲巻でおなじみの動物たちです。摩訶大将棋の猫又、盲熊のところは、もともとは銀兎、羊兵だったのではと想像してみるのも楽しいものです。創案当時のプランとは、多少変化していくのも仕方ないでしょうが、幸いにも、十二支(=十二神将)が読み取れる程度には原型を留めていてくれたということです。