2015年

7月

24日

163)古代ペルシャからの将棋直接伝来:シャトランジの研究開始

一般論では、シャトランジ(もともとはインドのチャトランガ)が西に伝わってチェスに、東に伝わってシャンチーになったということになっています。このことから、古代日本の将棋伝来を考える際には、どうしても中国を基点とした延長線上で、将棋伝来が論じられがちです。しかし、そうでない伝来の仕方もあるだろうと考えます。


シャトランジおよびその系統(たとえば、Tamalene ChessやGreat Chess等)と平安将棋/平安大将棋/摩訶大将棋との類似を考えてみれば、古代ペルシャからの将棋直接伝来もあり得るでしょう。中国では駒の名前の漢訳のみがなされ、ルールは素通りしてきたという可能性です。本稿、以下に、ひとまず類似点を列挙してみます。摩訶大将棋に加えて、新たにシャトランジ(以下では、シャトランジの系統も含めて、シャトランジと総称します)の研究もいかがでしょうか。

 

ここで、ルールの伝搬先として摩訶大将棋までを入れるのは重要です。これまでの考察から明らかなように、平安将棋と平安大将棋の他、摩訶大将棋が原初の将棋である可能性が高そうです(※注参照)。もちろん、投稿159)で話題にしましたように、まだ知られざる古代の将棋があったかも知れませんが、文献に記載されていない将棋は議論のしようもありません。大将棋や中将棋よりも摩訶大将棋が古い形態である以上、摩訶大将棋は検討候補とせざるを得ないでしょう。ところが、シャトランジを調べてみますと、以下書きますように、そのルールの名残りは、摩訶大将棋にもきちんと残されており、やはり、摩訶大将棋は古式であることの感を強くします。


シャトランジとの類似性

1)敵が玉将(king)のみになれば勝つというルール(平安将棋)

2)成りのルール:歩(pawn)が金(general)になるというルール(平安将棋)

3)成りのルール:成ると王子(prince)になる駒が存在し、

         王子は玉将相当の駒となる(摩訶大将棋)

4)rookが2回動くというルールの存在(摩訶大将棋)


1)については、投稿157)にて多少詳しく書いています。2)3)4)については、シャトランジの方のルール解説をきちんと引用してからでないと納得いただけないと思いますが、本稿ひとまずこのあたりで置きます。続きは後日に。類似性は、実は、まだまだあります。今まで、なぜ、注目されないまま置かれてきたのでしょう。このテーマ、非常に大きいテーマです。


1点、4)のみ軽く紹介します。まだ原典には当たっていません。疑心暗鬼ではありますが、次の文面です。Difference between Chaturanga and Shatranjというフォーラムの中の1投稿です。


As an example, some Arab manuscripts seem to indicate a double move of the rook and centre pawns to allow a quicker development of the elephants. But we don't know how widespread such variants were.


http://www.chess.com/forum/view/chess960-chess-variants/diffeacuterence-between-chaturanga-and-shatranj


問題の原典はアラビア語です。a double move of the rookはチェスのキャスリングのことではないだろうと見ました。rookが2回続けて動くという特殊なルールについての言及なのではと。


また、私は最近まで知りませんでしたが、3)のルールはよく知られています。今までは、王子(酔象の成り)も取らなければ勝てないというルールを、日本将棋のオリジナルだと考えていたのですが、どうもそうではなさそうです。古代ペルシャ恐るべしです。


※注

摩訶大将棋の薬師如来やその眷属である十二神将の存在は、なかなか学会発表には乗りにくいものです。しかし、摩訶大将棋の伎楽面の駒の導入を、薬師経に書かれているとおり、薬師如来への供養と見れば、非常に自然な駒の並びだと言えます。また、伎楽面の駒と踊り駒の一致は、踊り駒という名称の由来のようにも見え、これも自然です。さらに、時代違いの伎楽がなぜ摩訶大将棋に登場するのかという疑問にも答えることができるわけです。


なお、狛犬師子同時導入説への反論は、まだどの研究会でも聞かされていません。こちらの説だけでも、摩訶大将棋が先行したという論拠になるのではと考えます。師子だけが単独に駒として導入されたとするのは不自然であり、説明もつきません。つまり、師子が単独で存在する大将棋/中将棋は、駒を追加することで作られた将棋ではなく、駒の削減により作られた将棋ということを示しています。