2015年

11月

27日

180)古代の将棋の桂馬の動き(覚え書き)

古代の将棋の桂馬の動きと、現代将棋の桂馬の動きは同じではありません。桂馬は、この点で、かなり特異な駒だと言えるでしょう。何らかの事情がありそうです。桂馬以外の現代将棋の駒、つまり、玉将、金将、銀将、香車、歩兵、飛車、角行は、どれも、古代の動きと現代の動きが同じなのですから。


この件、すでに何度か投稿したテーマですが、覚え書きも兼ねて、確認したいと思います。桂馬の動きが昔と今で違うということを知らない人も多いでしょう。本稿では、まずはじめに、昔の桂馬の動きが今とは違っていたことの根拠を示します。さらに、なぜ動きが変更されたのかを考えてみますが、こちらの方は、まだはっきりした答えは見つかっていません。その手がかりのみとなります。

 

昔の桂馬の動きを示す直接の証拠としては、象棊纂圖部類抄をはじめいろいろな古文書に記載されている駒の動きの図を挙げることができます。ここでは、その一例として、国立歴史民俗博物館のWebサイトに公開されている、次の画像を挙げておきます。聆涛閣集古帖・戯器部の摩訶大将棋図です。なお、この図では猛牛の動きが間違っています。猛牛は前後左右に2目踊る駒です。


https://www.rekihaku.ac.jp/outline/publication/rekihaku/130/img/img008.jpg

https://www.rekihaku.ac.jp/outline/publication/rekihaku/130/witness.html


図で桂馬の位置は、歩兵の列の2つ下の列、端から2つ目です。桂馬の字のななめ上、左右2方向に点がついています(桂馬の動きを示す点は、他のどの古文書でも同様です)。この点の付き方から明らかなように、桂馬の動きは、摩訶大将棋と大将棋では、ななめ前に2目踊る駒であることがわかります。念のため、以下の簡略図で、点の付き方と動きの方向の対応をご確認下さい。


 

上記サイトの摩訶大将棋図は、3)と同じ点の付き方をしています(□印は駒の位置です)。もし、今の桂馬の動きを表現したいのであれば、上の1)か2)のように点を付けないといけません。つまり、2つの点は縦に並んでいる(1の場合)、または、桂馬の字の真上に1つ目の点が付いている(2の場合)かのどちらかでなければいけないのです。しかし、古文書に記載される大型将棋の桂馬の動きに、上の1)2)とする古文書はどこにも見当たりません。すべてが、3)のようになっています。したがって、桂馬が踊り駒かどうかはともかくとして、少なくとも桂馬の着地点は、2目ななめ前45度の線上で間違いないでしょう。比較のため、踊り2目の猛牛、同じく踊り2目の鳳凰、踊り3目の力士の点の付き方を、4)~6)に置きました。

 

なお、桂馬が踊り駒であることの根拠については、本稿のテーマから外れますので、この件は後日の投稿といたします。本稿では、桂馬の動きが昔と今とで違う、という点のみを焦点としました。

 

次に、古文書の文章からの根拠ですが、二中歴には、桂馬の動きの注釈として、次のようにあります。昔の桂馬の動きを文章として直接に記述しているのは、残念ながら、二中歴のこの箇所以外にはありません。

 

桂馬前角越一目

 

桂馬、前の角、1目を超す、という感じの読みでしょう。ちょうど、上の3)の点の付き方と一致しています。私が少し不思議に思いますのは、二中歴にこのように記されているのに、これまであまり問題とされなかったことです。桂馬前角越一目」を今の桂馬の動きと読み解くのは、かなり無理があるのではないでしょうか。越一目とありますので、桂馬のように屈折した動きに当てはめることができません。


昔の桂馬が、チェスのナイトの前方だけの動き(=今の桂馬の動き)、つまり、八方桂の動きではなかったとする、3番目の根拠は、大型将棋の駒の動きのパターンに現れています。以前の投稿175)の中の図、摩訶大将棋の走り駒、踊り駒の動きのパターンを参照下さい。それらの図に並ぶパターンは、摩訶大将棋からのものですので、さほど複雑なパターンはありませんが、基本となる走りや踊りのパターンを拡張して作られ、パターンが増やされていくわけです。同様に、大大将棋の方も調べていただくと、もっといろいろな駒の動きのパターンを見ることができます。重要な点は、そうしたパターンの中に、桂馬や八方桂の動きを拡張したパターンがひとつも見られないということです。


下図に、八方桂の動きを拡張したパターン例を挙げました。このような例が、日本の将棋にはないのです。これは、古代日本の将棋に、現代の桂馬の動きがなかったということを意味しています。下図の例は、もちろん海外の将棋類からとなりますが、7)がチェスのナイト(八方桂)、8)がTamerlane ChessのCamel、9)はCourier ChessのGiraffeの動きです。



以上、まとめますと、桂馬の動きが古代と現代で違うという根拠は、次の3点です。

1)象棊纂圖部類抄等の古文書に見られる桂馬の動きの図

2)二中歴、第十三 博棊歴にある桂馬の動きに関する記述

3)古代日本の大型将棋の駒の動きのパターン


本稿、長くなりました。本稿で予定の、なぜ桂馬の動きが違うのかという理由の考察については、別稿としました。近々に投稿182)として書きます。