2016年

9月

09日

196)TGS2016: 6)象棊纂圖部類抄の読み方:大将棋の注釈

象棊纂圖部類抄の大将棋(15マス)の復刻について書きます。象棊纂圖部類抄は全編がパズルのような古文書ですので、そのまま素直に読んだだけでは、何も出てきません。たとえば、投稿193)で書きましたが、中将棋のところに「仲人不行傍」と書かれていることから、間接的に、大将棋の仲人は傍らに行くというルールを知ることができるのです。

 

結論からまず書きますと、大将棋も、摩訶大将棋と同様、とても面白い将棋だということがわかります。大将棋では、摩訶大将棋にあった強力な大駒が多数取り除かれていますので、戦局が落ち着き、現代将棋に近い趣きになります。どちらが面白いかという話ではなく、個人的な好みの問題でしょうか。同じ競技でも種目が違うという感じです。400m走と5000m走、平泳ぎと個人メドレー、鉄棒と床運動、そういった感じです。

 

さて、象棊纂圖部類抄の大将棋の箇所ですが、大将棋の図の後ろには、短い注釈が2行書かれているだけです。次のとおりです。

 

大象戯成馬 以上三枚

酔象成太子 鳳凰成奔王 麒麟成師子

 

ただ、この部分、文章が言葉足らずなのです。きちんと写本されなかったのだろうと考えます。そのままに読んでしまうと正しい解読はできません。この続き、次のリンクにて書きます。

 

象棊纂圖部類抄の大将棋の成りの注釈を、そのとおりに読むと、成りは3つだけで、他の駒はすべて不成りということになってしまいます。もちろん、この記述どおりだとするのもひとつの解釈ではありますが、本ブログでは、わずかな写本のミスだとみます。

 

象棊纂圖部類抄から派生した江戸時代の古文書もここの解釈は悩んだようです。そのままの解釈(3つ以外はすべて不成り)をとる古文書はなく、たとえば、大象棋絹篩(1821年)では、中将棋にある駒は中将棋のとおり、ない駒は大大将棋に準ずるとしていますが、信頼性ゼロです。つまり、江戸時代の古文書はすべてが、将棋は、小さな将棋から順に大きな将棋へと発展していったとする考え方で貫かれているため、より小さい将棋をルールの基準としているにすぎないのです。

 

さて、どこが写本のミスか。次のとおりです。

 

写本どおりの解釈:大将棋の成りは3つ(酔象、鳳凰、麒麟)だけ。

もともとの記述:大将棋の成りで従来から変更したものは3つ(酔象、鳳凰、麒麟)だけ。

 

ほんのわずかな言葉足らずだったわけですが、上のように解釈すると、将棋の発展順とも矛盾せず、大将棋が後世にまで残った「成功した」将棋だということもわかります。

 

もともとの将棋(大将棋の前に存在した将棋)は何であったかですが、この候補としては、摩訶大将棋だけです。大型将棋の成立順については、一番最近では、投稿186)にて概要だけを紹介していますが、技術報告として4ページにまとめており、国会図書館にて入手可能です。

http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I027209590-00

この報告は、展示会のときには、来場者の皆さんに配布もしています。

 

投稿186)にはいくつかコメントも入っていますが、この時分は返信がむずかしかったころです。返信なしのまま失礼しています。広将棋についてですが、その存在を示す古文書がなく議論はむずかしいと考えます。大将棋という語句の問題ですが、文献に記載されている、中将棋(12マス)、平安大将棋(13マス)、大将棋(15マス)、大大将棋(17マス)、摩訶大将棋(19マス)の5つの将棋だけが大型将棋史の議論の対象であると考えています。このスタンスについては、先日の投稿195)にも書きましたとおりです。この5つ以外の将棋Xを想定されましても、そもそも初期配置や駒種の全部がきちんと決まりません。ですので、将棋Xを基にした議論は無理ではないでしょうか。どうしても感想合戦になってしまいます。

 

脱線してしまいました。象棊纂圖部類抄の大将棋の成りが、従来のものから変更された、という話からです。では、その従来の将棋は何でしょうか?

 

候補は、ともあれ、中将棋、平安大将棋、大大将棋、摩訶大将棋の4つしかないわけです。この4つが全部、候補として合理的でないのなら、「変更前の将棋」は不明とせざる得ません(ここで、将棋Xを想定すると、将棋史の議論ではなくなります)。または、本稿の仮説(写本がミスしている)が間違っているというのが結論になります。

 

果たして候補はあるのかどうか。それがきっちりあるわけです。摩訶大将棋です。

それでは、以下確認していきます。

 

酔象の成り: 王子(摩訶大将棋)--> 太子(大将棋)

鳳凰の成り: 狛犬(摩訶大将棋)--> 奔王(大将棋)

麒麟の成り: 師子(摩訶大将棋) 大龍(大大将棋)--> 師子(大将棋)

 

もとになる将棋は大大将棋ではありません。大将棋と大大将棋は駒種に不一致があります。一方、大将棋の駒は摩訶大将棋にすべて含まれます。麒麟の成りは、摩訶大将棋から変わっていませんが、大将棋の成立時、すでに大大将棋ができていたものと思われます。麒麟の成りが師子なのか大龍なのかを明確にするためのものでしょう。

 

酔象、鳳凰、麒麟以外の成りは、従来と同じ(=摩訶大将棋と同じ)という解釈ですので、残りの成りは全部決まります。なお、大将棋と大大将棋の成りの比較をしていただくとわかりますが、成り先については、麒麟のみが不確定なことがよくわかると思いますので、ご確認下さい。とてもうまくできています。

 

以上、まとめますと、大将棋の成り駒は、摩訶大将棋とほぼ同じです。鳳凰については、成り先の狛犬が大将棋にありませんので、その代替に奔王が選ばれました。酔象の成りが王子から太子に変わったのは、投稿103)の議論のとおり、言葉の使い方が時代とともに変わったということでしょう。

 

このように、成りが確定できたことで、大将棋を遊ぶことができます。大将棋を指されている皆さん、どうぞこのルールで対局をお試し下さい。奔駒に成る駒がまだ多数残されていますので、摩訶大将棋ほどではありませんが、豪快な将棋となります。対局時間も1時間以内です。そして、摩訶大将棋とは面白さの種類が多少変わりますが、やはり面白い将棋です。

 

本稿、次の3点確認いただきたく思います。

1)平安大将棋は面白くないが、大将棋(15マス)は面白い。

2)象棊纂圖部類抄の大将棋の後の注釈と中将棋の後の注釈は、同じスタンスで書かれている。つまり、注意すべき点のみ(変更になった点のみ)を注釈している。

3)本稿の結論は、大型将棋の成立順を前提としていない。しかし、結果的には、摩訶大将棋 --> 大将棋の成立順を支持する。

 

今後の対局会は、摩訶大将棋、大将棋の両方で実施する方向でいこうと思っています。

しばらくしましたら、コンピュータ大将棋もリリースする予定です。