135)摩訶大将棋の駒:狛犬と鳳凰について

彫駒:狛犬(不成り)と鳳凰(成りは狛犬)
彫駒:狛犬(不成り)と鳳凰(成りは狛犬)

摩訶大将棋が大将棋よりも先に成立したということを手がかりにして、摩訶大将棋の復刻は大きく進んだ感ありです。右の写真は、駒遊び人さん作の彫駒、狛犬と鳳凰です。狛犬は不成り、鳳凰は狛犬に成ることに注意して下さい。この2駒は、復刻の成果の代表と言っていいものでしょう。


また、鳳凰は2目の踊り駒です(麒麟も同じく2目踊りです)。この件、投稿116)や120)あたりをご参照下さい。さらに、主要な踊り駒が伎楽面の名称に由来する駒であるかも知れないことを考えますと、このことが「踊り駒」という名称の起源になっている可能性もあります。


以上のことは、古文書に明記されているわけではありませんので、100%の断言はできないでしょうが、3分の2以上の同意が得られそうな感触です。ところで、鳳凰の駒は、中将棋や大将棋にもあり、鳳凰の駒の裏、つまり、鳳凰の成りは奔王です。ただ、このルールは、中将棋と大将棋のルールであり、摩訶大将棋では、そうでなかったと考えます(たとえば、投稿116参照)。


師子と狛犬でペア、麒麟と鳳凰でペアというのは確かと思われますので、麒麟が師子に成る以上、鳳凰が狛犬に成るというのは自然です。しかし、摩訶大将棋の鳳凰の成りは奔王、狛犬の成りは金であると、象棊纂圖部類抄には記されています。摩訶大将棋の伝承は、象棊纂圖部類抄の内容が記述された頃(最も新しくて1443年)には、もはや正しくなかったのでしょう。


摩訶大将棋から駒数を減らして大将棋が作られた際、揃っていた十二支の駒のいくつかがなくなったわけですが、同時に、3目の踊り駒がすべて取り除かれました。大将棋が考案された際、鳳凰の成り先であった狛犬がなくなったため、新しい成り先として奔王が選ばれたというわけです。


なお、狛犬は、当然、不成りであるべきです。成り先となっている駒は、成っていない駒が目指すべき到達点です。したがって、その到達点となっている駒々には、もはや「成る」という変化はあり得ません。師子(麒麟の成り先)についても、そのとおりです。師子はもとより師子であり、最後まで師子であるように、同じく狛犬もそうであるべきです。古典将棋において、その他の代表的な不成りの駒、金将、奔王、龍王、龍馬についても、不成りであることの経緯をきちんと考えてみる必要がありそうです。この件、後日にまた続けたいと思います。