145)奔獏の駒と鳥獣戯画

投稿142)の続きを少し書きます。続きのうち、人物に関する件は、また別に投稿します。


投稿142)では、鳥獣戯画の乙巻が摩訶大将棋と関連していると書きましたが、正確には、摩訶大将棋シリーズとでも言うべき大型将棋のことを想定したものです。摩訶大将棋そのものではありません。十二支や三十六禽の駒がある将棋のことを、ぼんやり思い浮かべていました。平安時代に、そうした将棋があったのかどうか。


鳥獣戯画の丙巻と丁巻は鎌倉時代の作ですから、本稿で問題とするのは、平安時代の作、甲巻と乙巻の方です。甲巻で遊戯を扱った鳥獣戯画が、乙巻で、当時の大型将棋、摩訶大将棋シリーズを意識していたかどうか、その点を空想しています。


まず、乙巻に登場する動物ですが、登場順に、次の15種類と見ることができるでしょう。

1)馬 2)牛 3)鷹 4)狼 5)鶏

6)鷲 7)? 8)麒麟 9)豹 10)山羊

11)虎 12)獅子 13)龍 14)象 15)獏

このうち、7)の動物については、亀のようでもあり犀のようでもあり、空想上の動物のようでもあり、特定はされていません。摩訶大将棋と関連するというスタンスからは、ここでは、狛犬と見ます。一角獣というのがポイントですが、この件、本稿の話題ではありません。


これまでの研究解説を読みますと、乙巻が何を表現しているのか、結論は出ていないようです。動物の絵のお手本だったという説が多数派ですが、お手本説は、絵巻の制作者の側から見れば、少し単純すぎるような気がします。制作の動機にもっと含まれた何かがあるとしましょう、そうすると、関連する人物からは、制作背景に将棋が思い浮かぶのです。この件また後日に。


結論のみ急ぎます。投稿142)で書きましたが、一番初めに馬、これが将棋を暗示しているのかも知れません。上記11)虎のあとに、獅子、龍、象、獏という順番は、一番強いものに向かって、強さの順に並んでいるのではないでしょうか。とすると、獏が一番強いわけです。


将棋の駒の獏は、奔獏の駒しかありません。知られている将棋の中では、大大将棋で初めて登場します。さて、奔獏はどれほど強いのかというと、とても強いのです。前後6方に走り、左右は5目の踊りです。奔王よりも強いでしょう。獏は強い、これは当時の共通認識だったかもです。


やっと、本題です。

3年前、投稿11)や投稿19)で取り上げましたが、いわゆる、「本横」の駒のことを思い出して下さい。当時の本ブログでの将棋歴史認識は、間違いだらけですが、「本横」の件については、変わっていません。まだ奔獏だと思っています。奔獏の駒が出土したという、この可能性は、今回の件で、3年前よりも大きくなりました。


本稿、全部書けませんでした。この続き、近々に引き続き投稿します。

なお、お分かりだと思いますが、絵巻に出てくる順に、摩訶大将棋の駒を言いますと、

狛犬、麒麟、猛豹、??、盲虎、師子、龍王(龍馬)、酔象、奔獏

です。??のところの絵は山羊です。羊は、十二支と駒との対応がまだわかっていません。


平安時代の後期、動物になぞらえるという風潮は、年中行事絵巻でもそうですし、そういう時代の空気があったのでしょうか。この点は、これから調査しないといけません。ただ、平安時代に摩訶大将棋シリーズが存在したとして、その駒の中に、酔象や師子、麒麟や龍王、そして、いろいろな動物が含まれていたとしても、何の不自然さもありません。


鳥獣戯画の中に多くの動物や霊獣が並ぶのと同様、将棋の中にも多くの動物や霊獣が並んでいたという風景。鳥獣戯画を見て摩訶大将棋を作ったというよりは、摩訶大将棋を念頭にして鳥獣戯画の乙巻を書いた、こういう説明は、いかがなものでしょうか。この件、鳥獣戯画に関係する人物のことを思いますと、もっと確かなものになります。