264)二巻本色葉字類抄は将棋史解明に重要

学会発表はこれからですし、まだ本ブログにも書いていなかったのですが、長谷川さんが公表してしまって困ったものです。のんびりと考えたかったのですが。。。二巻本ということを伝えなければよかったのでしょうか。しばらくは書く予定もなかったのですが、以下いちおうメモ書きしておきます。

 

二巻本色葉字類抄(12世紀中頃)には、中将棋の駒の名前が記載されています。大将棋と小将棋の駒は巻末にまとめて記載されているのですが、中将棋の駒は、本文中に組み込まれています。たとえば、銅将(成りが横行であることを明示)、仲人、銀将(成りが竪行であることを明示)、金将(成りが飛車であることを明示)、香車(成りが白駒であることを明示)、飛車等です。これが三巻本(13世紀はじめ)では、仲人と飛車以外は削除されています(成りの明示がなかったので残された可能性も)。

 

二中歴(13世紀はじめ)に将棋の駒名が記載されており、これが駒名の最初の古文書とされてきたわけですが、駒名の記載は、二中歴よりも二巻本色葉字類抄の方が早かった可能性もあります。二巻本のあとに三巻本が出るのですが、このとき、語句が整理されて削除や追加があります。問題は、二巻本の成立は三巻本よりも早いのですが、現代に残る写本は、三巻本の方がずっと古いという点です。それで、たとえば、将棋の駒名が後で追加されたのか、当初からあって三巻本で削除されたのかの判別が、文献学上では判断がつきません。そこで、将棋の歴史がその検証材料となってきます。これは、9世紀になされた平安京の拡張の問題とよく似たケースです(他分野の歴史の謎と将棋史の謎が、相補的に解決されていくという点です)。

 

色葉字類抄は、摩訶大将棋起源説を裏付ける文献のひとつです。色葉字類抄自体の謎がいろいろと残されており、それが象戯圖と同じで非常に面白い古文書になっています。日本最古の国語辞典というべきものですが、辞典というよりは読み物でしょう。広い範囲に想像を膨らますことができます。当然のことなんでしょうが、日本語は、すでに平安時代にしてとても緻密で豊かな言葉になっていたようです。

 

大将棋の駒リストでは(14世紀はじめでの挿入の可能性もあるわけですが)、酔象の象の字が書かれていません。象という漢字は、たぶん、当時はあまり知られていない漢字だったのでしょう。他の箇所でもよく間違っているのをみかけます。

 

まだ長くなりますし、このあたりで。

詳しくは学会発表の予稿でご覧下さい。